コラム「古代文字って?」をはじめるにあたり
「古代文字」というと、エジプトのヒエログリフやメソポタミアの楔形文字もありますが、ここではもちろん中国で生まれた古い文字のお話です。
太古の中国に黄帝の史官・蒼頡(そうけつ)という人物がおり、砂浜を歩く鳥の足跡をヒントにして初めて文字を創案したとされることがあります。しかしこれは確実な資料がないために、この史官は伝説上の人物とされています。
では、殷(いん)の時代に多く見られる甲骨文字が起源なのでしょうか?発見された現存の文字群としてはそうですが、どうやらそれ以前にも原始的な図象や記号文字のようなものはあったと唱える先生もいらっしゃるようです。ですが一般的には、甲骨文字が中国最古の体系的文字・漢字の起源とされています。
コラムでは、前述をふまえながら、古代の中国で文字が誕生してから秦の始皇帝の時代まで使われていた文字の総称として「古代文字」という言葉を使わせていただきます。
大きく時代順に分類すると、殷(紀元前16世紀~紀元前1023年)の時代に用いられていた亀の甲羅や動物の骨に刻まれた「甲骨文字」、そして殷・周(紀元前1023年~紀元前255年)の時代に発達したさまざまな形の青銅器に鋳込んだり彫ったりした「金文」、始皇帝が統一した秦(紀元前221年~紀元前206年)の時代の「篆文」(てんぶん)などがあります。
古代文字に興味を持つようになったきっかけは、2004年から5年間、西宮の酒蔵でお酒をテーマに個展をさせていただいた時の事でした。
作品創りをするために、まず「酒」の文字の起源を調べるところから始めました。金文の「さけ」は、『さんずい』もなく酒樽そのものの形で、樽の底の丸いもの、尖ったもの、さまざまの面白い形が並んでいて縄文土器を思わずにはいられませんでした(ちなみに縄文時代の日本には文字は存在しません)。さらに調べを進めてゆくと、酒樽を両手で捧げて神前に置く形の「尊」、人が口を開いて酒樽の中のものを飲む形の「飲」などなど古代文字の造形の面白さに感動しました。
古代文字を知ることは、漢字の成り立ちを知ることであり、そこからは古代人の祈りや習慣が垣間見えてきます。以前から古代人に(特に縄文人)思いを寄せている私としては、たちまちその魅力に引き込まれていきました。
これから折々に古代の漢字を取り上げて、その成り立ちや、自分の感じたことを書き記していきたいと思います。古代人の思いを少しでもお伝えできれば幸いです。
注:文字の説明については、主に白川静(故人)先生の「字通」「常用字解」を参照させていただきます。