古代文字って?▼ 第24回 大寒

2016年1月21日

 「大寒」とは、一年の中で最も寒さの厳しいころのことです。北国では来る日も来る日も雪が降り続きますが、南国では蕗の薹(ふきのとう)が顔を出したり、樹木の芽吹きの便りが届くこともあります。また、冬至を過ぎて少しずつではありますが、日もだんだん長くなり、陽射しも強くなっていきます。気温はまだまだ低いのですが、もうすぐ近くまで春が来ているようです。

 このような時期に使われる自身の好きなことばに「春隣(はるとなり)」があります。この二文字を見ているだけで、ぽかぽかとうれしくなりませんか?
 さて、対面が待ち遠しい「蕗の薹」ですが、別に「蕗の姑(ふきのしゅうとめ)」「蕗の祖父(じい)」と面白い呼び方があります。「蕗の祖父」は「蕗の姑」のパートナーとして考えられたのでしょうが「姑」の方は、苦味があるからとの説があるようです。ほんとうでしょうか!!??
 そう言えば、芽が出るので縁起の良いものとして、おせち料理に使われる「くわい」は「慈姑」と書きます。ここにも「姑」が登場しますね。これは「姑を慈しむ」ではなく、くわいが1年で1根から12子が出来、それが慈しみ深いお母さん(姑)が子育てをする姿に似ているということから中国であてられた漢字だそうです。古今東西、人々の心が見え隠れします。

 暦の上で年の初まりの日とされた「立春」から開始して、二十四節気ごとに書いてきましたこのコラムも、今回が最後になりました。ひと回りしてついに「立春」の直前まで還ってきました。
 「立春」の前日が冬と春の季節を分ける「節分」です。元気なかけ声で「鬼は外、福は内・・・」と豆をまき、季節の変りめに出るといわれている邪気を払えば、春のおとずれです。

 最後に取り上げる文字は「鬼」と「還」です。

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「鬼」 甲骨文字

 黄鬼(黄色の紙)をご覧ください。「人」の古代文字の形に大きな頭を加えた形です。

 大きな頭がこの世の人の姿とは異なることを示しています。人は死んだら人鬼になると考えられていたようです。「鬼籍に入る」ともいいますね。

 赤鬼(赤色の紙)には水滴を加えてあり、これは香りのついた酒をふりかけて清め祓っていることを示しています。また青鬼(青色の紙)には、神を祭る時に使う机(祭卓)である「示」を加えてあります。

 おとぎ話の世界みたいに、赤鬼、青鬼・・・少し遊んでみました。もうじき桃太郎ならぬ、たくさんの豆たちに打ちのめされます。

「還」  甲骨文字

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この右の部分は、葬儀の際、死者の衣装の襟もとに死者の霊に力を添える玉(○)を置いて、上に生命のあることを証明する「目」を書いている字形です。

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 これは、死者が生き還ることを願う儀礼です。このときに使う玉を「環」といいます。「還」は死者が生き「かえる」ことを祈る意味でしたが、辵(ちゃく、歩くという意味がある)を加えて、往還(行き帰り)の「かえる」という意味に使われるようになったようです。

 作品は、2008年の酒蔵での個展「ハレの酒」の部分です。
 ハレとケ、決しておめでたいことだけがハレではありません。ハレは非日常的な機会であるのに対してそれ以外はケです。縄文のムラでの悲しいハレの場面です。出来ることなら出会いたくないが、どうしても避けることのできないハレを作品にしました。


 祈りの土偶を地面に打ち付けて叫ぶムラビトの声が聞こえてきます。

『還 もう一度生まれて来い あのお月様のように』


 昨年の「立春」から二十四節気ごとにコラムを書いてまいりましたが、今回の「大寒」でひとめぐりしましたので、「古代文字って?」は、ひとまず終了したいと思います。

 ただいま次のテーマを思案しています。近いうちに再開する予定ですのでどうぞお楽しみに・・・