古代文字って?▼ 第20回 小雪

2015年11月23日

 「小雪」とは、寒さが増しそろそろ雪が降り始めるころのことです。とはいえ、雪はまだそれほど降らないので小雪といいます。日の入りもずいぶん早くなってきたようです。山々には雪が降り積もり、足早に本格的な冬へと向かいます。

 11月23日は、国民の祝日勤労感謝の日ですが、もともとは新嘗祭(にいなめさい)の祭日だったそうです。その年に収穫された穀物を神に捧げて収穫を感謝し、きたるべき年の豊穣を祈る古代から行われてきた祭儀です。現在でも宮中や神社では変わらず粛々と営まれています。
 文明が発達し世の中がどれほど便利になっても、感謝と祈りのこころはいつも忘れず持ち続けていたいものです。

 今回取り上げる文字は、雪が降るの「降」と新嘗祭の「新」です。

20151123_furu1

「降」 甲骨文字

 「阝(こざとへん)」と「夅(こう)」を組み合わせた形です。

 「阝」は、天上の神が陟(のぼ)り降りするときに使う神の梯(はしご)の形です。「夅」は下向きの左右の足跡を上下に並べた形で、下るの意味を示します。

 神が神梯を降ることを「降」といい、神仏が天上から地上に降ってくることを降臨といいます。第4回の「陽」のところでも少し触れましたように、古代中国では、神が天上におり、この神梯を使って陟り降りすると考えられていたようです。

 日本の神話でも天照大御神の孫であるニニギノミコトが高千穂峰に降りて来られたことがわが国の始まりであるという天孫降臨の話があります。

 「降」は神が「くだる」というのがもともとの意味でしたが、高いところから「くだる、くだす、おりる、おちる、ふる」ことを「降」というようになり、後に敵に負けて従うことを降参、降伏というようになったようです。

20151123_furu2

 ちなみに「陟」の文字が左の写真です。「梯」の右側に「降」とは逆に上向きの左右の足跡を上下に並べた形で示されています。

 文字が伝達手段のひとつである現代人がこの文字を見るとき、足跡の形が上向きだったり下向きだったりして、とてもユニークに思えますが、古代人にとってはまったく異なる感覚だったことでしょう。なんといっても神聖な神の梯なのですから・・・この神梯の前だけで人は神と交わることができたことでしょう。

20151123_sin

「新」 甲骨文字

 

 「辛」と「木」と「斤」とを組み合わせた形です。「辛」は取っ手のついた大きな針で、親の位牌を作る木を選ぶとき、この針を投げて選びます。「辛」の当たった木を斤(おの)で切ることを「新」といいます。神の意思によって選ばれた木を新しく切り出すことで「あたらしい、はじめ」の意味となります。切り出した新しい木で位牌を作り、その位牌をじっと見て拝む形が「親」です。その位牌を拝む人たちは親族であり「したしい」という意味も生まれました。また、位牌を作った残りの木は「薪」として火祭りのときに使われたようです。

 この神の意思によって木を選ぶ方法は、神聖な矢を放って土地や場所を清める風習に似ているように思います。「矢」は古代中国でとても神聖なものとされていました。矢を放てない場合は、放ったしぐさとして弓の弦を鳴らしていたようです。
 今でも日本の宮中儀式に残っていて、皇子が誕生し産湯をつかう際に鳴弦(めいげん)の儀が執り行われています。また、矢だけでなく弓も同じく邪気を祓う魔よけの風習に使われます。なじみ深いところでは、土俵を祓い清める大相撲の弓取り式、お正月に飾る破魔弓や破魔矢があります。最近はあまり見かけなくなりましたが、上棟式の際、屋根の上にも立ててありましたね。

 作品は、2015年11月の個展「はじまりのとき」のものです。
 甲骨文字とカタカナで 『日ニ日ニ新タナリ』
 昨日とはちがう今日のはじまり、毎日が新たなはじまり・・・という思いをこめた作品です。「新」の部分をごらんください。「辛」の針が「木」に当たったところに「斤」がまさに入ろうとしています。ここです!ここを切ってお位牌をお作りください・・・と矢印のように見えませんか??


 いよいよ寒くなってきますね。
 長期予報では、今年の冬は暖冬とドカ雪だそうです。暖冬はありがたいですが、ドカ雪は困りもの、恐ろしいです。南国育ちの自分には想像しにくいですが、雪はかなりの重量で雪下ろしだけでも大変な作業だと聞きます。どうか、悲しいニュースがとどきませんように。

では、次回は12月7日「大雪」の頃に・・・