古代文字って?▼ 第9回 芒種

2015年6月6日

 「芒種」とは、稲、麦など、芒(のぎ)のある穀類の種を蒔くころのことです。芒とは、イネ科の植物の穂先にある針のような突起をさします。

 日本では、この時期は梅雨の足音が聞こえてくる頃でもあります。梅雨入りすると、じめじめしたうっとうしい日が多くなりますが、しみじみと雨を眺めたり静かに雨音に耳を傾けるのもよいですね。また、雨の日にお香を聞くのはなんとも心が落ちつくものです。

 今日取り上げる文字は「雲」と「香」です。

20150606_kumo

「雲」 甲骨文字

 音を示す要素の音符は「云(うん)」。「云」は雲の流れる下に龍の捲いている尾が少しだけ現れている形です。

 「云」が雲の元の字で、後に気象現象をあらわす「雨」を加えて「雲」の字になりました。また「云」は「云う(いう)」のように別の意味にも使われるようになります。

 「龍」は不思議な力を持つ伝説上の聖なる獣で、洪水の化身といわれます。

 古代文字の成り立ちを知り、龍の尾っぽがちらりとのぞいている この「雲」の字を見ると、頭隠して尻隠さずの慣用句をふと思い出してしまいます。恐ろしい龍の姿も、とても愛らしく思えてきますね。

 この作品は、「云」の文字に、八木重吉の詩である『もくもくと雲のやうにふるえてゐたい』 を添えました。もくもくと、湧き上がる雲の様子が表現できるよう、淡墨を使い、にじみを出しています。

20150606_kaori

「香」 甲骨文字

 

 「黍(しょ)」と「曰(えつ)」とを組み合わせた形です。

 「黍」は、きび類のこと。「曰」は「さい」の文字の上に一本線が増えた形で、これは「さい」の中に祝詞が入っている事を意味します。
 「さい」は、第4回の春分編に、「闇」の文字のところで説明しましたね。

 (もう一度「さい」の説明を見るにはこちらを)

 神に黍をすすめ、祝詞を奏して神に祈る意味の字だと思われます。中国最古の経典である「書経」に、黍稷(しょしょく)は、もちきび、うるちきびなどのことを言い、これらの芳しい香りは神の心を動かすとあります。
 そのために、神を祭るときには香りをつけた酒を供えたり、犬を焼いてその臭いを天に昇らせたりしたようです。

 「香」は黍の芳しい香りをすすめて神に祈る字で「かおり、か、かおる、におい、よいにおい、かんばしい」の意味となります。

 ちなみに同じような意味をもつ「匂」の文字は中国から伝わった漢字ではありません。文化や風土に合わせて日本で作られた文字、すなわち国字です。他に「峠」「凪」「榊」なども国字になります。


 日本列島は梅雨入りしたばかりで、これから長雨の季節になります。毎年のように、大きな災害が起こり悲しいニュースが聞こえてきます。龍神さん、今年は、あまり暴れないでおとなしくしていてください。どうぞ、お手柔らかにお願いします。

次回は6月22日「夏至」の頃に・・・