2015年5月21日
「小満」とは、いのちが満ち満ちてゆくころのこと。草木、花々、鳥、虫、獣、人・・・万物が日を浴びて輝きを放つ季節です。立春や立夏のようには、なじみがありませんが、蚕が眠りから覚め音を立てて桑の葉を食べ、紅花が咲きそろい、麦の穂が黄金に熟する勢いのある時節です。勢い猛となった自然が「人間も元気に活動しよう、僕らと一緒に・・・」と叱咤激励しているように思えます。
自然はありがたいものです。桜、ツツジに続いて菖蒲、藤、バラ・・・と美しい花たちが心を和ませてくれています。そして四季のある日本に生まれてよかったと実感します。四季があり、またそれが移ろうからこそ和歌や俳句、いろいろな芸術が生まれたのでしょう。日々の暮らしはもちろんのこと、年中行事も四季を軸にして展開しているものが多くあります。日本人らしい豊かな心は四季によって育まれてきたものだと思います。
今日取り上げる文字は「育」、そして季節の移ろいから連想される「時」です。
「育」 甲骨文字
「𠫓(とつ)」と「月」とを組み合わせた形です。
「𠫓」は生まれた子供の逆さまの形で、赤ちゃんが生れ落ちる姿です。その下に「月(にくづき)」を加えて人の体であることを示しています。
「育」の元の字は「毓(いく)」です。左部の「毎」は母親の姿です。その母親の後ろに生れ落ちる赤ちゃんである「𠫓」の頭に髪の毛のある「㐬(とつ)を加えた形です。赤ちゃんが生まれる形をしています。
「育」「毓」には子を「うむ、そだてる、そだつ」の意味があります。
作品は、2008年の酒蔵での個展「ハレの酒」の時のものです。縄文のムラでの「誕生と死」をテーマにしました。
縄文時代では出産にかかわる生命の危険は母子共にとても大きく、子供が無事に生まれ出ても元気に育つことはたいへん難しかったと思います。縄文人の平均寿命は31歳ほどだったといわれています。無事に出産し、無事に育ってとほしいとどれだけ願ったことでしょうか。
この作品では「毓」の文字に、叫びに近いその切実な願い 『健やかに育て 新しい命 そして永遠に繋いでゆけ』 を添えました。
「時」 金 文
音を表す文字と意味を表す文字を組み合わせて、新しい文字を作ってある形声文字です。
音を示す要素の音符「寺」と、時の流れを意味する「日」の組み合わせでできています。「寺」にはものを保有し、またその状態を保ち続けるという意味があり「持」の元の字です。手に持ち続けることを「持」といい、時間的に持続することを「時」といいます。「時」は「とき、そのとき、ときに、きせつ」などの意味に用います。
また、「寺」の文字の上部は「之」で趾(あしあと)の形です。下部の「寸」は指を伸ばした右手の形である「又(ゆう)」の指の下に「一」を添えた形です。
作品は時をテーマにした2013年の個展に出品したものです。
目くるめく流れ去る時間をイメージして、柿渋色のグラデーションの中に白い一筋の光が差し込んだかのような和紙に仕上げました。
先日、脳科学者の興味ある記事を読みました。周りの世界が見慣れたものになってくると時間が速く過ぎ去ってゆくように感じられるものだそうです。これは決して歳のせいではなく、なじみのある情報が増えるから。
時の流れをもっとゆっくり感じたいなら、新しいことを学び続け、新しい場所を訪ね、新しい人に出会うなど等、新しい情報により多く触れると良いとの事です。ひたすら時の流れを遅くすることに努めたいと思います。
梅雨入りが近づいてきます。農家では田植の準備に忙しいことでしょう。
田の神様に豊作を祈りつつ、次回は6月6日「芒種」の頃に・・・